長谷川式認知症スケールの点数と見方|9問の内容とカットオフ値を徹底解説
親の物忘れが増えたり、会話の辻褄が合わなくなったりした際、医療機関や地域包括支援センターで最初に行われる代表的な認知機能検査が「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」です。日本の臨床現場で半世紀近くにわたり最も広く使われているスクリーニング検査ですが、実際にどのような質問が出され、点数をどう受け止めるべきなのか、正しく理解しているご家族は多くありません。
検査の点数が低いからといって直ちに「認知症の確定」を意味するわけではなく、逆に満点に近いからといって安心しきれないケースも存在します。本稿では、精神医学の現場データや開発者である精神科医・長谷川和夫氏の臨床思想に基づき、全9問の質問項目、採点基準、カットオフ値の正確な見方、そして世界基準であるMMSEとの違いまでを徹底的に解き明かします。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:長谷川式(HDS-R)は30点満点の簡易検査で、20点以下が「認知症の疑いあり」とされるカットオフ値。
- 要点2:全9問の設問は記憶力・見当識・計算・言語流暢性を短時間(約10〜15分)で測る構造になっている。
- 要点3:点数はあくまで早期発見の「スクリーニング(ふるい分け)」であり、確定診断には専門医による画像検査や問診が不可欠。
【基礎知識】長谷川式認知症スケール(HDS-R)とは?開発の背景と本質
長谷川式認知症スケールは、精神科医の長谷川和夫氏らが1974年に開発した「長谷川式簡易知能評価スケール」を前身とし、1991年に改訂された改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を指します。日本の高齢者医療および介護保険制度の現場において、最も標準的なスクリーニング検査として定着しています。
改訂前の旧スケールでは教育歴による点数差が出やすい難点がありましたが、改訂によって教育年数の影響を抑え、より純粋な記憶や認知機能の低下を検知できるよう設問が見直されました。所要時間は10分から15分程度と短く、特別な検査機器を必要とせずベッドサイドや診察室で即座に実施できる点が特徴です。
長谷川和夫氏は晩年、自らが認知症(嗜銀顆粒性認知症)を患ったことを公表し、自著や特別番組の告白などで「認知症になっても本人の確かな心は生きている」「検査の数値だけでその人の人格や尊厳を測ってはならない」と強く警鐘を鳴らしました。この検査は単なるテストではなく、本人の困りごとや記憶のつまずきに寄り添うための第一歩として設計されています。

【質問項目一覧】全9問の設問内容と採点方法・基準
HDS-Rは全9問で構成され、合計得点は30点満点です。質問は記憶の保持、時間の見当識、空間の把握、注意力、言語機能など、日常生活を自立して送るために必要な機能を網羅しています。
| 設問番号・項目 | 質問内容と配点 | 測定する認知機能 | 採点のポイント・注意点 |
|---|---|---|---|
| 問1:年齢 | お歳はいくつですか?(1点) | 自己の見当識 | ±2歳までの誤差は正解とする。 |
| 問2:日時の見当識 | 今日の日付(年・月・日・曜日)(各1点・計4点) | 時間の見当識 | 年・月・日・曜日がそれぞれ合っていれば1点ずつ加算。 |
| 問3:場所の見当識 | 私たちが今いるところはどこですか?(2点) | 場所の見当識 | 自発的に病院や施設名を答えれば2点。ヒント(病院ですか、家ですか)で正解なら1点。 |
| 問4:言葉の記銘 | 3つの言葉(桜・猫・電車など)を復唱(各1点・計3点) | 即時記憶(短期記憶の保持) | 後でまた聞くことを必ず予告する。正しく言えた単語数で配点。 |
| 問5:計算 | 100から7を順に引く(2回)(各1点・計2点) | 注意力・計算力・ワーキングメモリ | 100-7=93(1点)、93-7=86(1点)。最初の引き算を間違えた場合は2問目へ進まない。 |
| 問6:数字の逆唱 | 数字を逆から言う(3桁・4桁)(各1点・計2点) | 作業記憶(ワーキングメモリ) | 例:「6-8-2」に対し「2-8-6」と答える。3桁が成功したら4桁(3-5-2-9)を行う。 |
| 問7:言葉の遅延再生 | 問4の3つの言葉をもう一度言う(各2点・計6点) | 遅延再生(近時記憶) | 自力で思い出せば各2点。ヒント(植物・動物・乗り物)を出して正解なら各1点。 |
| 問8:物品の記銘 | 5つの品物を見せて隠し、当てる(各1点・計5点) | 視覚的記銘・遅延再生 | 互いに関連のない日常品(時計、鍵、ペン、硬貨、スプーンなど)を提示して隠す。 |
| 問9:言語流暢性 | 知っている野菜の名前をできるだけ多く言う(計5点) | 前頭葉機能・言語流暢性 | 制限時間約1分。0〜5個=0点、6個=1点、7個=2点、8個=3点、9個=4点、10個以上=5点。 |
【点数の見方】カットオフ値「20点以下」が示す臨床的サイン
HDS-Rにおいて、臨床上最も重要視される判定基準がカットオフ値「20点」です。学術的な検証データにおいて、合計得点が20点以下の場合、高い感度と特異度で認知症の疑いがあると判定されます。
ただし、点数の解釈には段階的な理解が必要です。厚生労働省のガイドラインや認知症専門医の臨床診断基準に基づくと、点数帯によって以下のような状態が想定されます。
- 21点〜30点(正常範囲〜軽度低下):一般的な認知機能は概ね保たれている状態。ただし、21〜24点付近では軽度認知障害(MCI)の兆候が含まれている可能性があり、生活実態の確認が推奨されます。
- 16点〜20点(軽度認知症の疑い):カットオフ値を下回り、近時記憶や見当識に明確な低下が見られます。早期発見・早期介入の最も重要なフェーズです。
- 11点〜15点(中等度認知症の疑い):計算や遅延再生だけでなく、時間や場所の見当識にも支障が生じ、日常生活の自立(服薬管理、金銭管理、調理など)が困難になりやすい段階です。
- 10点以下(高度認知症の疑い):言葉の理解や物品の認識が難しくなり、身の回りの動作全般に手厚い介護支援を必要とする状態です。
特に注視すべきは問7の「遅延再生(配点6点)」です。合計得点が22点であっても、問7が0点〜2点と極端に低い場合は、アルツハイマー型認知症の初期特徴である「エピソード記憶の脱落」が強く疑われます。合計点だけでなく、どの設問で失点しているかの内訳を分析することが不可欠です。

【徹底比較】長谷川式(HDS-R)とMMSEの決定的な違い
医療現場では、長谷川式と並んでMMSE(Mini-Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)が頻繁に用いられます。両者は混同されがちですが、検査の目的や得意とする評価領域に明確な差異があります。
| 比較項目 | 改訂長谷川式スケール(HDS-R) | MMSE(ミニメンタル) | 現場での使い分け基準 |
|---|---|---|---|
| 発祥・適用エリア | 日本(長谷川和夫ら開発) 国内の診療所・介護現場で主流 | アメリカ(フォルスタインら開発) 国際的な臨床試験・世界基準 | 国内の地域医療ではHDS-R、国際治験や学術研究ではMMSEが選ばれる傾向。 |
| 満点とカットオフ値 | 30点満点中20点以下 | 30点満点中23点以下(または26点以下でMCI疑い) | カットオフ値が異なるため、単純な点数の合致比較はできない。 |
| 身体動作・図形描画 | なし(すべて口頭でのやり取り) | あり(重なり合う五角形の模写、文章の書字、紙を折る動作など) | 麻痺や視力低下がある場合はHDS-Rが適し、空間認知・失行を診るならMMSEが優れる。 |
| 記憶評価の比重 | 配点が高く、近時記憶・遅延再生の検出に極めて鋭敏 | 言語指示理解や構成能力を含む総合的な評価 | 初期アルツハイマー病の記憶障害を早期に拾い上げたい時はHDS-Rが有利。 |
MMSEにはペンを持って図形を描く問題や、紙を手で折る動作指示が含まれるため、脳血管性認知症やレビー小体型認知症に伴う視空間認知障害・頭頂葉症状の評価に適しています。一方、長谷川式は口頭のみで完結するため、運動障害や関節痛を抱える日本の超高齢者でも心理的負荷が少なく、記憶障害をピンポイントで浮き彫りにできる強みを持っています。
【実態検証】検査時の注意点と自宅テストで陥りがちな3つの誤解
インターネット上に設問が公開されていることから、「親の認知症を確かめたい」と家族自らが自宅でテストを実施しようとするケースが後を絶ちません。しかし、医療現場や介護相談の最前線では、素人による自宅実施に対して専門医が強い懸念を示しています。
誤解1:家族が自宅でテストしても正確な結果が出る
認知症検査は、検査者との信頼関係や中立な環境で行うことが大前提です。家族が「これ何だっけ?」「さっき言った3つの言葉を言ってごらん」と試すように問いただすと、本人は強い屈辱感や不安、恐怖を覚えます。心理的動揺から本来答えられるはずの設問に答えられなくなり、結果的に点数が極端に落ちるケースが多発しています。テストをきっかけに親子の関係性が破綻する事例も少なくありません。
誤解2:20点以上取れたから絶対に認知症ではない
高学歴な方や元々知的好奇心が高かった方は、高い代償能力(脳の予備能)によって初期の段階でも25点〜28点を獲得することがあります。しかし、日常生活では料理の手順を間違えたり、同じ買い物を繰り返したりする実行機能障害が出ている場合があり、「満点に近い=異常なし」とは言い切れません。逆に、難聴やうつ病(仮性認知症)、睡眠薬の影響などで一時的に20点を下回るケースもあります。
誤解3:点数が悪かったら即座に介護施設行きになる
スクリーニング検査の点数は、現在の認知機能を把握するための単なる「ものさし」に過ぎず、生活能力そのものを否定するものではありません。点数が低くても適切な支援や環境調整、薬物治療を行えば、住み慣れた自宅で穏やかに暮らし続けることが可能です。点数に過剰反応して本人の自立機会を奪ってしまうことこそが、認知症を悪化させる最大の要因となります。

【専門医の視点】早期発見から家族の心理的受容・ケア体制の構築へ
長谷川式認知症スケールを受検する真の目的は、病気を確定させて烙印を押すことではなく、早期発見によって適切な医療・介護資源に早期アクセスすることにあります。
現在、アルツハイマー病の進行を抑える新たな疾患修飾薬が実用化されるなど、医療は「早期診断」の重要性をかつてないほど高めています。物忘れ外来や認知症専門医のもとでHDS-Rを実施し、頭部MRIや血液検査、問診を組み合わせることで、単なる加齢による物忘れなのか、MCIなのか、あるいは治療可能な脳疾患(正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫など)なのかを正確に見極めることができます。
また、家族社会学や心理療法の観点からも、親の認知機能低下に直面した家族が「健全な心理的バウンダリー(境界線)」を保つことが求められます。親の衰えを直視したくない否認の感情や、親の物忘れに過剰に怒りをぶつけてしまう共依存的なストレスを抱え込まず、地域包括支援センターやケアマネジャーといった外部のプロを頼る準備を始めるための指標として、検査結果を活用すべきです。
【プロの結論】受検を検討すべきケースと慎重になるべき状況
- 受検を強く推奨する状況:同じ話を短時間に何度も繰り返す、日課だった料理や家計管理ができなくなった、金銭トラブルや薬の飲み忘れが頻発している場合。この場合は家族がテストするのではなく、かかりつけ医や物忘れ外来へ同行して専門家に検査を依頼してください。
- 無理な受検を避けるべき状況:本人が受診に強い拒絶感を示している最中や、体調不良・睡眠不足・強い精神的ストレスを抱えている時。無理強いして検査を受けさせると、医療不信を招きその後の支援が困難になります。「健康診断のついで」「血圧の相談」などの口実を作り、医師の診察の流れの中で自然に検査を受けてもらう工夫が鉄則です。
【長谷川式認知症スケール】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:長谷川式認知症スケールで20点以下だった場合、すぐに認知症と診断されますか?
A1:いいえ、直ちに診断が下りるわけではありません。HDS-Rはあくまで認知症の疑いをふるい分けるための「スクリーニング検査」です。確定診断には、認知症専門医による頭部MRI・CTなどの画像検査、血液検査、日常生活動作(ADL)の問診などを総合して判断します。
Q2:検査の質問内容をあらかじめ本人に練習させておいても良いですか?
A2:事前の練習や設問の丸暗記は絶対に避けてください。練習によって見かけの点数が高くなってしまうと、実際の認知機能低下が見逃され、早期治療や介護保険サービスの申請といった本来必要な支援を受けるタイミングを失うリスクがあります。
Q3:耳が遠い親でも長谷川式認知症スケールを正確に受けられますか?
A3:長谷川式は口頭でのやり取りが中心となるため、聴力低下(難聴)があると質問を聞き取れず、本来の能力よりも点数が低く出てしまうことがあります。検査を受ける際は、補聴器を正しく装着するか、検査者に耳が遠い旨を事前に伝え、ゆっくり大きな声で設問を提示してもらう必要があります。
まとめ:検査の数値を恐れず早期受診へのきっかけに
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は、日本の認知症医療を支えてきた信頼性の高いツールです。20点以下というカットオフ値は、家族や本人が「これからの生活を見直し、適切な医療・ケア体制を整える合図」に過ぎません。
点数の高低に一喜一憂したり、自宅で無理にテストを試みて家族関係を損ねたりするのではなく、変化を感じた段階で速やかにかかりつけ医や地域包括支援センターへ相談することが、本人らしい穏やかな生活を守るための最も確実な道筋です。 (出典: 長谷川 式 認知 症 スケール(Yahoo!ニュース))